#003
試作品つくってみた!
〈食器・テーブル用品編 〉
“概念”グッズ第一弾 「ピカチュウ」モチーフのタンブラー、つくってみた!
公開
- カテゴリー:食器・テーブル用品
- 製 品:タンブラー
- 加 工:塗装・メッキ調塗装・レーザー加工
- 風合い:ピカピカ・鏡面・艶感
- 素 材:ステンレス
- カラー:ゴールド・シルバー・黄色
塗装やメッキをはじめとする表面加工を手がけるワカヤマ。ふだんはお客様からご依頼のあった製品をつくる受託生産をおもな業務としていますが、社内の「ものつくり戦略室」では日々さまざまな製品企画のアイデアが生まれています。
「こんな製品があればいいよね」「ワカヤマならつくれるんじゃない?」。それぞれのアイデアについて話し合ううちに、社員たちの“つくりたい欲”は高まるばかり……。
ならばつくってしまおう!ということで、「試作品、つくってみた!」プロジェクトが始動。
誰にも頼まれていないのに勝手に試作品をつくる、その過程の一部始終をお届けします。
MEMBER
-
株式会社ワカヤマ
ものつくり戦略室
山本 -
株式会社ワカヤマ
ものつくり戦略室
田中 -
株式会社ワカヤマ
営業
西野 -
株式会社KATATI
オチ・アキラ -
株式会社KATATI
越智ゆみ
STEP1
製品企画のためのヒアリング with 女子高生
2024年、某月某日。「試作品つくってみた!」プロジェクトのメンバーがワカヤマの会議室に集まり、次回の試作品案についてアイデアを出し合っていました。本企画で過去につくってきたのは、スイッチプレートやドアハンドルといった建材。次は日用品がいいよね、しかも家で使うだけでなく外にも持ち運べるようなもの……。そこまではスムーズに話が進んだものの、以降の議論が停滞。「名刺入れ」「ヘッドホン」などの候補は挙がったけれど、どれも決め手に欠ける気がするようです。
ふとメンバーの山本が立ち上がり、その日何杯目かのコーヒーをお代わりして席に戻ります。手元には、某コーヒーチェーンで買ったピンクのタンブラー。
……タンブラー、ええやん
山本の手元を見てつぶやいたオチの言葉に、メンバーたちの視線がタンブラーに集中。たしかに、タンブラーは家でも外でも活躍する人気アイテムです。おまけにサイズも素材もワカヤマの表面処理技術と親和性が高い。「たしかに!」「めっちゃ良い!」とメンバーたちがそれぞれに賛意を表明し、お題は「タンブラー」に決まったのでした。
ただし、タンブラーは老若男女があらゆるシーンで使うアイテムでもあるため、製品企画をするにはターゲットを絞る必要があります。せっかくなら、ワカヤマの技術をあれこれ試すことができる派手なタンブラーをつくってみたい。そこで今回は独断と偏見で、キラキラしたものや柄モノが好きそうな女子高生をターゲットにすることに。彼女たちの嗜好を探るため、ワカヤマの社員の娘さんとその友人たちに協力を仰ぎ、ヒアリングをおこなうことになりました。
ヒアリングに協力してくれたのは、京都の高校に通う3年生の大井川さん、山田さん、馬場さんの3名。学校では映像・漫画・デザインコースに在籍し、共通の趣味であるアニメなどを通じて親しくなったのだそうです。
まずは高校生たちに企画の概要を説明し、参考にしてもらうために買ってきたタンブラーを机の上に並べます。タンブラーは、原色のピンクやブルーのグラデーションの入った派手なものから、パステルカラーのかわいらしいもの、極シンプルなものまでさまざま。手始めに、いかにも若い女性好きのしそうな派手なキラキラしたタンブラーを指さして「これはどう思う?」と訊ねたところ、3名からは意外な反応が。
家で使うぶんには楽しそうだけど、外で使うには派手かも……
キラキラしてる感じがちょっと
おしゃれなんだけど、持ち歩きたいかと言われると微妙
(あれ? 思ってたんと違う……汗)
焦るオチ。急いで次の質問を投げます。
じゃあ、どういうのが好き?
同じグラデーションでも、配色がもっとシンプルなのとか
淡いくすみカラーだとかわいいと思います
3名が「これは好き」と手にするのは、予想に反してシンプルなタンブラーばかり。彼女たち曰く、キラキラしたものが好きなのはギャルっぽい高校生であって、自分たちは趣味も嗜好もそれとは違うのだとか。ならばと、オチが機転を利かせます。
みなさんはアニメが好きなんですよね? 好きなキャラクターが入ったようなデザインはどうですか?
うーん……。キャラが入っているというより、キャラをモチーフにしたデザインだとうれしいかも。パッと見は何てことのない普通のデザインなんだけど、同じキャラを推してる人が見ればわかる、みたいな
推しキャラのイメージカラーがさり気なく入ってるとか
いわゆる「概念」グッズだよね
が、概念……?
!?!?!?!?!?
概念グッズっていうのは、キャラクターのイメージカラーが入ったものやイメージする香りのするものなど、直接的ではないけれど、推しを想起させるアイテムのことです
たとえば推しのイメージカラーが黄色とオレンジ色だとしたら、その2つの色が入ったものを買ったりとか
アニメの公式グッズじゃなくても、こっちで勝手に「概念」を見出して買うんだよね。そういうものを持ち歩いたり、公式グッズと一緒に家に飾るだけで気分が上がるんです
なるほど、概念グッズはおもしろいかもしれないですね!
ここで山本が颯爽と登場。頭の中が疑問符だらけのプロジェクトメンバーの中で唯一、高校生たちの言うことを理解している模様です。
元アニヲタなので、ここはお任せください(キリッ
キラキラした女子高生受けのするタンブラーをつくるつもりが、「概念グッズ」なるものをつくる予想外の展開に。でもなんかおもしろそう、これに乗らない手はない! ということで、ここからは三者三様の推しキャラをモチーフにした概念タンブラーをつくっていきます。頼んだぞ、山本!!!
STEP2
「概念」のデザイン化 with 女子高生
3人の高校生のひとり、馬場さんの好きなアニメは『ポケットモンスター』。推しキャラは旧主人公のサトシ、推しモンスターはピカチュウだそうですが、サトシやピカチュウをそのままタンブラーのデザインにすると、もちろん任天堂さんに怒られてしまいますし、そもそも高校生たちの言う「概念グッズ」ではなくなってしまいます。
たとえばピカチュウの尻尾のかたちをシルエットにして入れるとか、どうでしょう?
いきなり馬場さんからナイスアシストが。さすがデザイン学科に通う高校生!
いいですね。その場合、タンブラーの色は何色がかわいいですか? 黄色にしたらピカチュウ感が出すぎ?
タンブラーの色は黄色でも、尻尾のシルエットの部分を削って素地の金属を露出する感じにすれば、かっこいいかも
あー、なるほど。西野さん、それなら加工できますよね?
レーザーで削ればできますね
尻尾のモチーフもいいけど、もっとキャラから離れたモチーフにするのはどう? でんきタイプのモンスターなら稲妻のモチーフを入れたり、こおりタイプのモンスターなら雪の結晶のモチーフを入れたり
それ最高! 天才!!!
ここまでの話を元に、オチがタブレットにデザイン案のイラストを描き殴ります。画面を馬場さんたちに見せて、意見を聞いては調整する、という作業を繰り返すこと数分。
稲妻のモチーフをもっと小さくして……。うん、これで完璧だと思います!
STEP3
具体的な色と加工は? 製品詳細を詰める
ヒアリングの成果を会社に持ち帰り、さらに企画会議を開くメンバーたち。今回の場合、デザイン案はすでにほぼ固まっていますが、実際の色や表面加工をどうするのか、詳細を詰めていきます。色については、ピカチュウを構成する色である黄色と黒は外せません。塗装は、馬場さんが気に入っていたマット塗装で、という方向で話が進んでいたのですが……。
でも、黄色と黒でマットな塗装やと、一歩間違えると阪神タイガースっぽくなりません?
言われてみれば、たしかに。とくに関西では危険な組み合わせですよね……
じゃあ、黄色じゃなくてゴールドにするのはどうでしょう。ゴールドやシルバーっぽいメッキ調塗装ができる良い塗料があるんですよ。これ、サンプルなんですけど
わー、ピカピカしててきれい!
でしょう? お値段が張るぶん高級感もあって……
こういう艶感のあるアイテム、大人の女性向けの市場で最近また増えてきていますよね。ポケモンモチーフだと子どもっぽくなるんじゃないかという懸念があったので、ちょうど良いと思います
ゴールドとシルバー、どっちもかっこいいなあ
それなら2種類つくっちゃいましょう。ゴールドのほうは馬場さんが言っていたように稲妻部分をレーザーで削って、シルバーのほうは稲妻部分に黄色い印刷を施す
うんうん、いい感じです
稲妻のモチーフのデザインは、山本さんに任せていいですか?
お任せください(キリッ
トントン拍子に話が進み、製品仕様の詳細が決定。その後、デザイナーである越智が全体をまとめ、仕様書を作成します。あとは仕様書を工場へ提出し、試作品の完成を待つだけ……!
STEP4
完成した試作品をチェック with 女子高生
仕様書をワカヤマの工場へ提出して数週間。上がってきた完成品を持って、ふたたび馬場さんら高校生たちのもとを訪れます。
先日ヒアリングしたピカチュウの概念タンブラーが完成しました。こちらです!
おおー! すごい、ピカピカしてる! かわいいー!!
弊社が扱う塗料のなかでも、もっとも高価な塗料を贅沢に使ってみました(笑)。せっかくなので、ゴールドとシルバーの2種類をつくり、黒い蓋も含めてピカチュウを表現したつもりです。馬場さんはどちらがお好きですか?
えー、どっちもかわいいです。デザインとしてはシルバーのほうが好みだけど、ゴールドのほうがピカチュウっぽい。できれば2つセットで持っていたい
ここで、越智がもっとも気になっていたことを確認。
ちゃんとピカチュウの概念グッズになっていますか……?
はい、めっちゃ概念だと思います!
よ、良かったーーーーー!!!!
馬場さんの言葉に、ほっと胸を撫で下ろす一同。企画会議で山本がたびたびおこなった「概念とは」のレクチャーが奏功したのか、どうやら高校生のお眼鏡に叶った様子です。「概念グッズ、おもしろい……!」と味をしめたメンバーたちは、次なる概念グッズの企画に向かうのでした。