爪切りや毛抜きをはじめとする“身だしなみを整える刃物”の製造・販売をおこなうグリーンベル。高い機能性にデザイン性を兼ね備えた「匠の技」シリーズの爪切りや耳かき、メディアでも話題になった「ズレずに抜ける驚きの毛抜き」などの自社ブランド製品を多く手がけ、日本のモノづくりを支える役割も担っています。そんな同社とワカヤマのお付き合いがはじまったのは2020年。当時から現在に至るまで弊社との窓口をつづけてくださっている株式会社グリーンベル 商品管理・出荷管理課の今井孝典さんに、ワカヤマとの出会いからワカヤマの仕事の印象、今後ワカヤマに求めることまで、さまざまなお話をうかがいました。
お話を聞かせてもらった人
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株式会社グリーンベル
商品管理・出荷管理課 課長
今井孝典 氏
お話を聞いた人
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株式会社ワカヤマ
営業部
西野成太郎
刃物の産地・岐阜県関市の技術力と
徹底した商品管理
西野:
製造業にかかわる人間でグリーンベルさんの名前を知らない者はまずいないでしょうが、「グリーンベル」という名前になじみのない一般の方でも、知らないうちに御社の製品を日常的に使っている人は多いのではないかと思います。爪切りや毛抜きなどさまざまな製品のなかでも、主力製品は爪切りという認識で間違いないですか?
今井:
そうですね。爪切りだけで売上の約4割以上を占めます。
西野:
創業当時から主力製品は爪切りだったのでしょうか?
今井:
いえ、55年前にグリーンベルが創業した当初、おもに扱っていたのは布切りハサミやソーイングセット、梵天の耳かきなどでした。その後、創業者が取引先の工場で爪切りの製造工程を見て、「なんてむずかしいことをしてるんだ」と感銘を受けたそうなんですね。こんなにむずかしいことをできる会社はそう多くないだろうから、うちもやってみようと。
そんな思いつきで爪切りの製造を始め、少しずつ改良を重ねました。たとえば、かつては爪切りの指で押す「テコ」の部分は鋳物をプレスした「鍛造テコ」が主流でしたが、それよりも指で押したときの力が伝わりやすい「ダイキャスト製テコ」をいち早く導入したり、鉄製の刃物をより切れ味の鋭いステンレス製に変えたり。
そうしているうちに「グリーンベルの爪切りはすごい」と高い評価をいただくようになり、いつのまにか弊社の主力製品に育っていたという経緯があります。
西野:
じつは僕もグリーンベルさんの爪切りを買って使っているんです。それまで愛用していた百均の爪切りとは使用感がまったく違ったので驚きました。
今井:
ありがとうございます。爪切りの刃がサクッと爪に食い込んでいく独特の感覚は、他社製品ではなかなか味わえないかもしれないですね。
西野:
あとは毛抜きも。毛抜きは今井さんからいただいたものですが、これもやはり使ってみてびっくりしました。毛を抜くときに力を入れる必要がなくて。
今井:
そう、軽い力で抜くことができます。
西野:
グリーンベルさんは大阪の本社をはじめ全国に複数の拠点を構えていますが、工場は岐阜県の関市にありますよね。製品の質が高いのは、製造を関市でおこなっていることによるものが大きいのでしょうか?
今井:
そうですね。岐阜県関市は昔から刃物の産地として名高く、刃物製品の製造ノウハウや技術を擁した協力会社さんが集中しています。創業者の祖父も関市で鍛冶職人をしていたと聞いています。
西野:
会社のルーツが関市にあるんですね。現在のモノづくりにも昔ながらの職人さんの力を借りることはあるのでしょうか?
今井:
もちろんです。さすがに100%手作業というわけにはいかないですが、われわれの技術の肝である爪切りの刃付けは、いまも熟練の職人がひとつずつ手作業でおこなっています。加えて言えば検品もベテランの工員によるもので、製造した爪切りの3〜4割ほどは不良品としてもう一度つくり直すくらいの厳しい基準でやってもらっています。
西野:
3〜4割も! ベテランの職人さんがつくった製品でもそんなに不良品が出るものなんですか?
今井:
それほどきびしい基準で検品しているということです。モノづくりの技術力と同様、検品も弊社の大きな強みのひとつで、きびしいチェックがあるがゆえにお客様に満足いただける商品を出せているのだと自負しています。
西野:
だからこそ国内だけでなく、海外でも製品が評価されているわけですね。
今井:
たしかに近年はインバウンド需要も大きいですね。「日本の刃物はすごく切れ味がいい」と、われわれの爪切りも海外観光客向けの旅行ガイドに載せていただいているようで、日本に来た海外の方から多くお買い求めいただいています。
グリーンベルとしても海外展開は望むところですし、たくさんご注文をいただいてありがたいのですが、さきほど申し上げたように爪切りの製造工程には職人が手作業でおこなっている部分があるので、まったく製造が追いついていない状況なんです。それが目下の課題のひとつではありますね。
西野:
職人の数が減っているのに加え、高齢化が進んでいる。鯖江にも同じような課題があるのでよくわかります。
今井:
日本中のモノづくり産地が共通して抱える課題ですよね。とくに関市の場合は職人の高齢化が深刻で、平均年齢は80代くらい。われわれとお付き合いのある職人さんのなかには「あと数年で引退する」と明言している方もいて、「数年後にはこの製品がつくられなくなるかもしれない」という懸念が現実味を帯びはじめています。
いまつくっている製品を今後も安定的に供給するためには、製造の行程に工夫をしたり、新たに職人さんを見つける必要がある。そこで全国のモノづくり産地に足を運び、事態を打開できる技術はないかと探しているところです。
ワカヤマの塗装は「薄い」!?
西野:
今井さんはそういうことも担当しているんですか。言われてみれば、いつもあちこちへ出張されている印象があります。
今井:
私の本来の仕事は仕入れや生産管理ですが、商品開発にも一部関わっておりまして。OEMのクライアントや自社ブランドの開発担当者から「こういう製品をつくりたい」「こんな加工をしたい」と言われれば、それを実現できる技術を持った会社さんに連絡して交渉する役割を担っています。初めてワカヤマさんにご連絡をさしあげたときも、クライアントに「こんな塗装をしたい」と言われたのがきっかけでした。
そのクライアントは当時、海外製の毛抜きを販売していたんです。けれども品質が良くなかったらしく、製造コストが上がってもかまわないので日本製の毛抜きを売りたいと、われわれに製造の依頼があったんですね。色も決まっていたので、最初はワカヤマさんとは別の塗装会社さんに塗装を依頼したんです。
ところが、上がってきた製品を見ると塗装に細かい気泡や異物が混入していて、不良率がかなり高かった。それでは継続的にお仕事を依頼することはできません。どうしたものかと頭を抱えていたときに思い出したのがワカヤマさんの存在でした。
西野:
あ、それ以前から弊社の名前は知ってくださっていたんですか。
今井:
じつはその3年くらい前に、別のクライアントからやはり色のついた毛抜きの製造を依頼され、ネットで塗装会社さんを探したことがあったんです。たまたまワカヤマさんのウェブサイトに行き着いて、メガネの塗装をしているのなら質の高いお仕事をしてくださるだろうと、ウェブサイトの問い合わせフォームからご連絡をして。そのときは先代の社長さんに対応していただき、われわれとしてはぜひお願いしたかったのですが、諸条件の折り合いがつかずにペンディングになっていたんです。
それを思い出し、今回こそぜひワカヤマさんにと数年ぶりにご連絡をさしあげたところ、現社長が話を聞いてくださって。「こんな塗装できますか?」とたずねると、「できますよ」と。一度サンプルをつくっていただいたら、思った通り質の高い仕事をしてくださった。きれいな色に仕上がったのはもちろんのこと、気泡や異物の混入もありませんでした。不良率が格段に下がり、クライアントにも喜んでいただけたので、以後はワカヤマさんにお願いしようと決めました。
西野:
気泡や異物が混入する原因としては、クリーンルームの有無や塗料とシンナーの配合、塗料の吹き手の技術などいろいろなものが考えられます。その点、ワカヤマにはクリーンルームがありますし、塗料の配合や吹き付けにもベストを尽くすようにしています。
今井:
ワカヤマさんのお仕事を拝見して、これまで弊社がお付き合いしてきた塗装会社さんとは品質管理に対する意識がまったく違うと感じました。ワカヤマさんは美観付与というのでしょうか、美しい見た目にこだわった塗装を得意とされていますが、そういう塗装会社さんって意外と珍しいのではないかと思います。多くの会社さんは「ちょっとくらい気泡が入っても機能に問題がなければええやろ」というスタンスなので。
いちばん驚いたのが塗装の薄さです。ほかの会社さんと比べてあきらかに薄いんですよ。最初のサンプルではそのぶん発色も弱かったので、もう少し濃くしてくださいと依頼して。なぜこんなに薄いのですかと聞くと、対象物のデザインを損なわないように薄く塗装するとおっしゃっていたじゃないですか。デザインを優先して塗装する、そんな観点もあるんだとハッとしました。
西野:
メガネの塗装を手がけている会社ならではの観点かもしれません。たとえばブリッジやリムに彫金模様が入っているメガネを塗装する場合、模様の繊細な溝が塗料で埋まってしまうと製品の価値が下がってしまいますよね。そういう意識で仕事してきたからこそ、薄くきれいに塗る技術が磨かれてきたのかなと。
今井:
なるほど。ちなみに、ワカヤマさんで厚く塗ることは可能なんですか?
西野:
可能ですが、たぶんワカヤマの「厚い」は、一般的な塗装会社さんの「薄い」になるんですよ。
今井:
そうなりますよね(笑)。
西野:
良くも悪くも、どれだけ厚く塗っても薄さはあまり変わらないというか。
今井:
すばらしいことだと思います。
「引き出し」を増やして
自社と日本のモノづくりに貢献する
西野:
ここまでのお話ではワカヤマの良い点ばかり言ってくださっていますが、逆に、ワカヤマに感じている課題や、「もっとこうしてほしい」といったリクエストがあればいただいてよろしいでしょうか。
今井:
そうですねえ……。課題はとくに思いつかないかな。あえて言えば、たしか初めて納品してくださった際、梱包に問題があって、製品が擦れ合って少し傷がついていたんですよね。私が記憶しているかぎり、ワカヤマさんとのお仕事でのトラブルらしいトラブルはそれくらいだと思います。そのときの対応も速く、以後はトレイに入れて納品してくださるようになりましたし。
西野:
OEM製品の反応はいかがでしょう?
今井:
われわれのほうでエンドユーザーの声まで把握することはできませんが、クライアントからは定期的に発注がくるので、ご好評いただいているのではないかと。
一方、ポジティブなリクエストはいろいろあって、私自身、自分がやるべきことは製品のアイデアが出たときすぐに対応できる「引き出し」をつくっておくことだと思ってるんですね。だからこそ日常的に日本各地のモノづくり産地へ足を運び、さまざまな会社さんとコンタクトを取っている。
それが直ちに仕事につながらなくても、数カ月後、数年後に一緒にモノづくりできれば、という意識でつづけていることです。現に、ワカヤマさんとも最初に出会ってから実際にお仕事を依頼するまでには数年間のブランクがありましたよね。
西野:
そうですね。ワカヤマもお客さんと知り合ってすぐに仕事につながることはあまりなく、それこそたとえば名刺交換をして数カ月後や数年後にあらためてご連絡をいただくことが多いです。ですから定期的に展示会などにも出展して、いろいろな方とのご縁を増やすようにしています。
今井:
私も展示会にもよく足を運びますね。そうして「引き出し」を増やしつづけることが、自社のモノづくりの、ひいては日本のモノづくりのためになると信じているところがあります。もちろんワカヤマさんもわれわれにとって大切な「引き出し」のひとつです。
とくに昨今、材料費や運送費の高騰でモノづくりのコストがどんどん上がっていくなか、いわゆる価格訴求品ではビジネスがむずかしくなってきている状況があります。そこで高付加価値製品の開発を求められたときに、モノづくりのレベルが高いワカヤマさんが協力企業としていてくれるのは非常にありがたいなと。
西野:
さまざまな商品を開発されているなかで、ワカヤマを選択肢に入れてくださっているのは光栄なことですし、弊社としてもグリーンベルさんの「引き出し」をもっと広げていくためにいろいろなご提案をしていきたいです。
今井:
やりたいことは本当にいっぱいあるんですよ。具体的なアイデアもあって、たとえばカラーメッキをかけた爪切り。すべてのパーツをカラーリングした爪切りとか、刃物に特徴的な表面処理をほどこした爪切りがあればおもしろい気がします。
西野:
前にもそうしたお話をしてくださいましたよね。ただ、爪切りをパーツに分解した状態でお預かりしてメッキをかけると、製品を組み立てた際に擦れる部分が出て、メッキが剥がれる可能性がある。グリーンベルさんの製品はかなり緻密につくられているので、なおさら。もし色をつけるなら、設計の段階からご相談いただきたいのが正直なところです。
あるいは、擦れても剥がれない強度の塗料をはじめ、会社で扱う塗料をもっと増やすという解決策もあります。いずれにしても、お客さまから相談があったときに「できません」のひとことで終わらせたり、お引き受けしつつ内心不安を抱えたまま納品するようなことはしたくありません。どんなお客様のどんな要望にも自信をもって応えられるよう、つねに進化しつづける会社でありたいとは思っています。
今井:
期待しています!
西野:
ありがとうございます、がんばります!
株式会社グリーンベル 様
爪切りや毛抜きをはじめとする“身だしなみを整える刃物”の製造・販売をおこなうグリーンベル。高い機能性にデザイン性を兼ね備えた「匠の技」シリーズの爪切りや耳かき、メディアでも話題になった「ズレずに抜ける驚きの毛抜き」などの自社ブランド製品を多く手がけ、日本のモノづくりを支える役割も担っているグリーンベル。
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